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青森地方裁判所五所川原支部 昭和45年(ワ)63号 判決

原告 佐々木三朗

被告 国 外三名

訴訟代理人 家藤信正 外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「青森地方裁判所五所川原支部昭和四四年(リ)第一号事件につき、同四五年四月同庁の作成した配当表を変更し原告に金四〇〇万〇、〇〇〇円を、其の余を被告らに配当する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因を次のとおり述べた。

「一、原告は訴外株式会社成年建設に対し金四〇〇万〇、〇〇〇円の債権を有するところ、昭和四四年八月五日青森地方裁判所五所川原支部に、同訴外会社が青森県に対して有する工事番号第二二号前田野目板柳線道路改良工事の工事請負残代金債権金一〇六一万〇、六六三円中金四〇〇万〇、〇〇〇円について債権差押および転付命令の申請をし、同裁判所は右申請にもとづき同月六日債権差押および転付命令を発し、右命令は同日第三債務者である青森県に送達され右命令の効力が発生した。なお右命令は同年九月五日債務者である右訴外会社に送達された。

二、その後、前記訴外会社の青森県に対する前記工事請負代金債権につき、被告国は、昭和四四年八月一九日債権差押申請を、被告成田辰弥は、同月二七日債権差押および転付命令の申請を、被告日産プリンス青森販売株式会社(以下被告日産プリンスという。)は、同月二七日債権差押および取立命令の申請をそれぞれ前記裁判所になし、被告下山功は、訴外和島良蔵が同月二九日同裁判所に申請した債権仮差押の権利の譲渡を受け承継した。そこで、同裁判所は原告並びに被告らの債権差押および仮差押が競合したとして別紙のとおり配当表を作成した。

三、しかし、原告の申請にもとづく前記転付命令は、他の被告らが債権差押を申請する以前である昭和四四年八月六日発効し、前記工事請負代金中金四〇〇万〇、〇〇〇円についてはすでに原告に移転している。従つて、被告らの差押はこれを除いた額について差押の効力があり、その額の範囲でそれぞれ配当されるべきである。

よつて、請求の趣旨のとおり別紙配当表を変更することを求める。」

被告国、同日産プリンス、同下山功各訴訟代理人はいずれも主文と同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁を次のとおり述べた。

「請求原因第一項記載の事実は認める。ただし、転付命令が第三債務者に送達されたときその効力が発生するとの主張は争う。本件転付命令の効力が生じたのは、本件転付命令が債務者に送達された昭和四四年九月五日である。同第二項記載の事実は認める。同第三項は争う。」

被告成田辰弥およびその訴訟代理人は、適法な呼出をうけたが本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

一、原告並びに被告国、同日産プリンス、同下山功間において原告が訴外株式会社成年建設に対し金四〇〇万〇、〇〇〇円の債権を有し、昭和四四年八月五日青森地方裁判所五成川原支部に、同訴外会社が青森県に対して有する工事番号第二二号前田野目板柳線道路改良工事の工事請負代金一〇六一万〇、六六三円について債権差押および転付命令の申請をし、同裁判所は右申請にもとづき同月六日債権差押および転付命令を発し右命令が同日第三債務者である青森県に送達され、また同年九月五日債務者であを同訴外会社に送達されたこと、同訴外会社の青森県に対する右工事請負代金債権につき、被告国が昭和四四年八月一九日債権差押を被告成田辰弥が同月二七日債権差押および転付命令の申請を、被告日産プリンスが同日債権差押および取立命令の申請をそれぞれ同裁判所になし、被告下山功が訴外和島良蔵が同月二七日同裁判所に申請した債権仮差押の権利の譲渡をうけ、これを承継したこと、同裁判所が原告並びに被告らの債権差押若しくは仮差押が競合したとして別紙のとおり配当表を作成したことは争いがない。

被告成田辰弥は、民事訴訟法第一四〇条の規定により、原告主張の事実を自白したものと看做す。

二、ところで、転付命令の効力発生の時期について争いがあるのでこの点について判断する。

差押命令は、民事訴訟法第五八九条第二項により第三債務者および債務者にこれを送達し、また債務者にはその送達した旨を通知することを要するが、同条第三項により、第三債務者に対する送達を以つてこれを為したものと看做され、差押命令の効力も第三者に送達されるだけで生ずるものと解されているが転付命令は、同法第六〇〇条第二項、第六〇一条が同法第五九八条第二項の規定のみを準用し、第三項の規定を準用していないためその効力発生の時期について疑議の生ずるところである。特に転付命令は債権差押命令と同時に申請され、両命令が同時に発せられるのが実状であり、両命令ともにその効力を生じる時期を同じくすることが差押債権者に極めて便利であることから、転付命令についても同法第五九八条第三項の準用があるものと解することも理由がないわけではない。しかし、差押命令および転付命令は、ともに一面において債務者に対する裁判で本来債務者に告知されることがその効力発生の要件とされるべきである。ただ、差押命令については、迅速、かつ債務者に予知されることなく差押をなす必要から第三債務者に送達されることのみでその効力を生じさせたものと解される。これに反し転付命令は、この様な密行を必要としないのみならず、債務者の第三債務者に対する債権を券面額において債権者に移転し、執行債権は弁済されたものとみなされ、執行手続も終了する効果を生ずるのであるから、転付命令が債務者に送達されることなくこの様な効果を生ぜしめることは債務者の権利を不当に奪うものでとうてい是認できないところである。従つて転付命令の効力は、該命令が第三債務者および債務者に送達されることによつて始めて完全に発生するものと解するを相当とする。

三、そうだとすると、前記訴外会社の青森県に対する工事請負代金債権に対し、原告の申請に係る転付命令が第三債務者に送達された昭和四四年八月六日には、未だその効力は生せず、該命令が債務者である右訴外会社に送達された同年九月五日に始めて効力が生じるものというべきであるところ、被告国は、同年八月一九日、被告成田および被告日産プリンスは同月二七日前記債権に対し差押命令を申請し、被告下山は譲渡人である訴外和島において同日前記債権に対し仮差押を申請したことは前に認定のとおりであり、右各債権差押若しくは仮差押命令が、原告申請に係る前記転付命令の債務者送達前に第三債務者に送達されて差押、若しくは仮差押がなされたことは原告の明らかに争わないところである。

してみれば、原告の申請に係る本件転付命令の発効前に、被告らの申請にもとづいて当該債権が、差押若しくは仮差押がなされ、差押が競合し、その執行債権の総額が差押債権を超過するので、同裁判所が別紙配当表のとおり配当手続を行つたもので、右配当表を更正すべき事由はない。

四、よつて、原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判する。

(裁判官 新矢悦二)

別紙〈省略〉

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